特別受益の持戻し ~遺産分割で生前贈与を考慮して公平に~
- 真本 就平

- 2024年9月18日
- 読了時間: 5分
更新日:6月6日
親など身内の方が遺言を残さずに亡くなったとき、
相続人になる家族が遺産をどう分けるか相談して決めるのですが、
民法の割合に従って分割すると決めることもあるでしょう。
このとき、亡くなった人から生前に資金援助などの贈与を受けた家族がいた場合、
贈与を受けた人も受けなかった人も、同じだけの遺産を引き継げるとすれば、
相続人の間に不公平が生じる考え方も理解できます。
そこで、生前贈与など考慮して公平を目指す制度が民法には用意されています。
このときの生前贈与などを「特別受益」と呼びます。
民法では、相続人が複数いるとき、その構成に応じて配分割合を定めています。
例えば、結婚相手は半分で子ども同士は残り半分を均等に分けることになります。
こうした割合は、法定相続分と呼ばれ、よく知られています。
また、亡くなった人が遺言の中で相続人間の配分割合を決めることができ、
こうして指定した割合を指定相続分と言います。
一方、この法定相続分や指定相続分を個別の事案ごとに修正して算出する割合を
具体的相続分と呼び、相続人間の公平を図るために設けられています。
こうした修正の方法として、相続分の前渡しを考慮するのが、特別受益になります。
ほかに「寄与分」もありますが、ブログでは別の機会に取り上げます。
相続人が亡くなった人から、婚姻または養子縁組のため、
もしくは生計の資本として受けていた贈与が、特別受益に該当します。
また、相続人が受ける遺贈も、特別受益に該当します。
生前贈与の場合、何でも特別受益になるのではなく、用途が限定されます。
婚姻のための贈与なら、持参金や支度金などが該当し、
通常の結納金や挙式費用は含まれません。
生計の資本としての贈与は、独立資金、居宅や農地の贈与など、
広く生計の基礎として役立つような財産上の給付が当たります。
大学など高等教育の費用や留学資金について、兄弟姉妹の間で
著しい不公平が生じていれば、生計の資本としての特別受益になると考えられます。
ここで、特別受益が関わる具体的相続分を計算する例を紹介します。

相続人は、長男・長女・二男の子3人。
二男に対して、何十年も前に私立大学に長い間通うための学費で1千万円を支援。
長男に対して、亡くなる5年前に自宅の不動産、4千万円相当を贈与。
相続財産は、預貯金が4千万円残っているとします。
ここで、学費と自宅の贈与が特別受益になるとして、相続財産に加算して、
「みなし相続財産額」を算出します。これを持戻しと呼んでいます。
預貯金 4千万円 + 学費 1千万円 + 自宅 4千万円 = 9千万円
次に、みなし相続財産額に相続人各自の法定相続分を掛け算して、
一般的相続分額を出します。
子3人とも、9千万円 × 1/3 = 3千万円
この一般的相続分額から特別受益の額を引き算して、具体的相続分が算出されます。
二男ならば、3千万円-1千万円=2千万円 が具体的相続分になります。
ところが、この例では、長男は具体的相続分よりも特別受益が多くなっています。
3千万円 < 自宅 4千万円
こうしたとき、超えた部分を他の相続人に返す必要まではなく、
長男は通常の相続財産から配分を受けられない状態にとどまります。
この場合、他の相続人(長女と二男)が負担をかぶることになりますが、
実際に取得する相続分を計算するに当たっては、
具体的相続分を基準に算定する方法がよく使われています。
長女の具体的相続分は3千万円、二男のは2千万円なので、
相続財産4千万円は、次のとおり配分されます。
長女:4千万円×3千万円/(3千万円+2千万円)= 2,400万円
二男:4千万円×2千万円/(3千万円+2千万円)= 1,600万円
また、法定相続分や指定相続分を基準に算定する方法もあり、
財産の内容に応じて、使い分けられるようです。
画像では示していませんが、この方法を使う場合、
法定相続分は長女も二男も1/3で等しく、
長男の超過分1千万円を残りの相続分で負担するから5百万円ずつとなり、
2人の具体的相続分から引き算して、実際の相続分額を求めます。
長女 : 3千万円 - 5百万円 = 2,500万円
二男 : 2千万円 - 5百万円 = 1,500万円
この特別受益については、亡くなった人の生前の意思表示によって、
具体的相続分の算出に当たって加算しないという、持戻しの免除が認められます。
生前贈与を特別な取り分として扱う意思を尊重するためであり、
贈与のときに宣言するか、遺言に明記することが多いです。
このように相続人の公平を図るのが特別受益の制度なのですが、
実際の遺産分割の場面では、特別受益が相続争いの原因になることがままあります。
昔の贈与が対象なだけに、金額や存否について相続人の間で主張が異なったり、
法解釈として「婚姻のため」なり「生計の資本として」に該当するかどうかが
問題になり、遺産分割協議が結局まとまらないことが生じます。
また、特別受益の財産の評価は、相続開始時(亡くなったとき)の価額で
行われます。先ほどの例では価値を固定していましたが、
贈与から相続開始時までの不動産の時価の変動はもちろん、
金銭でさえ貨幣価値の変化を考慮すべきとされています。
こうした評価をどう扱うかも、相続争いの原因になってしまいます。