税金面の年収の壁、令和7年版 ~控除額は収入額によって変動~
- 真本 就平
- 4月19日
- 読了時間: 5分
令和7年3月31日に、国会で税制度を改正する法案が成立しました。
その中には、「年収の壁」と税金計算上の控除額に関する内容が含まれており、
少数与党が野党と協議する中で、法案が国会に提出され、
提出後も法案に修正が加えられる紆余曲折ぶりが話題になっていました。
「年収の壁」とは、夫婦のうち稼ぎが少ない方が働きに出る場合を主な対象に、
これ以上働くと税金などの負担に影響が出る限界のことを指します。
このうち税金面については、令和6年の状況をこのブログでも
説明したことがあります。 → リンク
国に支払う所得税について、令和7年からは、年間の給与収入が
160万円を超えると、超えた分に対して課税がなされます。
令和5年以前(令和6年は定額減税あり)は、この「壁」が103万円だったため、
比べると、非課税限度が57万円も増えたことになります。
令和7年以降の160万円については、次の2つの合計額になっています。
・基礎控除 = すべての人が対象になる控除
95万円 (←以前は48万円)
・給与所得控除 = 給与収入限定の控除
65万円 (←以前は55万円)
所得税の控除は、非課税限度を決めるだけでなく、
課税対象になる人々にも影響を与えるので、
控除額が増えると、税率を掛けた後の所得税額は減る効果が生じます。
ただし、みなさんが給与収入額から160万円控除されるわけではありません。
まず、給与所得控除は従来から、給与収入がある程度までは一定の金額で、
それを超えると徐々に増加していき、途中からは一定になる仕組みになっています。
給与収入が190万円以上の人は、控除額は以前と変わりません。
今回、給与収入が190万円までなら、控除額が一律の65万円になりました。
一方、基礎控除については、複雑な仕組みが導入されました。
令和6年12月に与党が出した案では、高所得者を除き、
一斉に48万円から58万円に引き上げる予定でしたが、
令和7年に入ってから法案に修正が加わったのが、この仕組みです。
基礎控除額が95万円になるのは、給与収入で見ると、200万円以下の方です。
※ 給与所得控除を反映した「合計所得金額」では、132万円以下ですが、
以下では適宜、合計所得金額のことは省略します。
給与収入が200万円を超え475万円以下の方の基礎控除額は、
令和7年と令和8年が88万円で、令和9年以降は58万円となり、
2年間限定で控除額が上乗せされることになりました。
そのほか、次のようになります。
給与収入:475万円超665万円以下
→ 基礎控除:令和7年と令和8年が68万円、令和9年以降は58万円
給与収入:665万円超850万円以下
→ 基礎控除:令和7年と令和8年が63万円、令和9年以降は58万円
給与収入:850万円超2,545万円以下
→ 基礎控除:令和7年から58万円
下の画像の左側もご覧ください。
なお、詳しくは述べませんが、収入の境目では、所得税の負担が増えるため、
収入が増えても手取りが減ってしまう逆転現象が起こってしまいます。

さて、稼ぎにかかる税金には、地方自治体に支払う住民税もあります。
非課税限度になる「壁」は、これまでたいていの自治体で100万円でしたが、
これからは10万円増えて、110万円に設定されます。
もっとも、住民税は前年の収入を基に計算されることから、
この改正は、令和7年の収入を基にする令和8年度の住民税から適用され始めます。
控除について、給与所得控除は所得税と共通で、最低額が65万円になりますが、
基礎控除は以前と変わらず、43万円のままです。
そのため、令和7年に所得税がかからなかったのに、
翌8年度の住民税は課税される人が多くなると見込まれます。
所得税も住民税も、稼ぎが無いあるいは少ない家族を扶養していると、
稼ぎの多い人が別の控除を受けられます。
この控除を受けられるように、稼ぎの少ない側が働く時間を調整することも、
「年収の壁」の一種だと、とらえられています。
結婚相手以外の親族と生計を同一にしていても、これまでは、
この親族の給与収入が年間103万円を超えてしまうと、
「扶養控除」を受けることができませんでした。
所得税における控除の金額は、親族の年齢によって、次のとおり異なっています。
・19歳以上23歳未満 → 63万円
・70歳以上で同居あり → 58万円
・ 〃 で同居なし → 48万円
・その他(16歳以上) → 38万円
令和7年からは、同一生計の19歳以上23歳未満の親族の年間給与収入が
150万円以下(合計所得金額で見ると85万円以下)の場合に、
控除の対象になり、限度が47万円引き上げられることになります。
さらに、19歳以上23歳未満の親族の給与収入が150万円を超えても
188万円までは、満額の63万円から段階的に金額が減るものの、
控除を受けられるようになります。
また、このほかの親族の場合、令和7年から、年間給与収入が123万円以下
(合計所得金額で見ると58万円以下)の場合に、控除の対象になります。
結婚相手(法律では「配偶者」呼ばれます)と生計が同一の場合で、
自身が高所得者でなければ、これまでは、年間給与収入が150万円以下のときに、
「配偶者控除」などが満額(通常の場合の所得税で38万円)控除されて、
給与収入が201万円までなら、段階的に金額が減るものの、控除を受けられました。
令和7年からは、年間給与収入が160万円以下(合計所得金額で95万円以下)
のときに「配偶者控除」などが満額控除されます。これを超えると、段階的に
控除の金額が減り、控除が受けられる給与収入の上限は、201万円のままです。
所得税については、令和7年分の源泉徴収がすでに始まっており、
令和7年12月の年末調整で、以上の改正が反映されることになりました。
令和8年は、年初めの源泉徴収から反映されます。
以上は税金面の「年収の壁」や控除の改正であり、社会保険面の「年収の壁」は、
半年前に掲載したブログ(→ リンク)の状況と変わっていません。
そのため、税金面の「壁」の金額が引き上がる中で、
社会保険面の106万円や130万円の「壁」が、より強く意識されると考えます。
さらに、今後の与野党の政治的な協議の中で、来年以降、
所得税の「壁」が再び引き上げられて178万円になる可能性なども残っており、
「年収の壁」については、今後の動向も注目しておきたいものです。
なお、所得税と住民税に関する個別の税務相談は、
課税元の行政機関または税理士にお願いします。