遺留分に関する民法の特例による合意書 ~経営承継円滑化法の要点~
- 真本 就平
- 5月12日
- 読了時間: 5分
中小企業を経営されている方の中には、自身が会社の代表取締役であるだけでなく、
会社の株式をすべて自分でもっていることも多いでしょう。
そして、いずれは会社を跡取りの子どもに継がせ、株式もすべて譲り渡したいと
決めており、事業承継の対策を進めている方もおられると思います。
株式を生前に贈与する方法や遺言で相続させる方法は、確かに有効ですが、
子が複数いる場合、子はみな、遺留分の権利を持つことに注意しなければなりません。
経営者の資産状況によっては、跡取り以外の子が遺留分の権利を主張することで、
跡取りが全部の株式を取得するのに苦労したり、失敗することが想定されます。
このような問題に対処する1つの方法として、
相続人全員で(多くの場合は結婚相手と子ども全員による)合意書を作成して、
役所に手続きをすることで、遺留分に関して民法の特例を認める制度があります。
この制度は、経営承継円滑化法に基づくもので、平成20年に始まりました。
この法律について、中小企業庁がホームページで紹介しています。 → リンク
下の画像は、遺留分に関する民法の特例について、会社を対象にした説明です。

民法の原則どおりの場合、生前贈与で財産を特定の人に渡しても、
その人が亡くなる10年前(相続人以外へ渡した場合は1年前)以内であれば、
子や結婚相手には一定の受け取る遺留分(通常は法定相続分の半分)があります。
そのため、自社株式をすべて後継者に渡しても、それ以外の財産が遺留分に
届かなければ、後継者は他の相続人に対して、不足分を金銭で支払う必要があり、
自社株式を処分しなければならない事態も起こりえます。
しかし、先に挙げた遺留分に関する民法の特例を利用すると、
先代経営者から後継者に贈与された自社株式を遺留分の算定から除外できます。
先代経営者の推定相続人全員及び後継者がこの合意をすることを
「除外合意」と呼びます。これにより、確実に後継者へ自社株式を譲れる上に、
遺留分の対応は残った財産だけを対象になります。
また、自社株式を遺留分の算定からまったく除くのではなく、
遺留分を算定する際、自社株式の価額は合意時の価額に固定する方法もあります。
先代経営者の推定相続人全員及び後継者がこの合意をすることを
「固定合意」と呼びます。これにより、後継者が自社株式の贈与を受けてから、
その価額(評価)が上がっても、上昇分は遺留分に影響しない効果を生むので、
後継者が相続まで待たずに、安心して会社を発展させられるわけです。
こうした特例を利用することができるのは、下の画像にあるように
次の条件を満たす方々に限定されています。
細かい点は、中小企業庁のホームページなどで確認願います。
<会社>
・経営承継円滑化法に定める中小企業であること
・・・業種ごとに資本金や従業員の範囲が定められています。
・3年以上継続して事業を行っている非上場企業であること
<先代経営者>
・過去又は合意時点において会社の代表者であること
<後継者>
・合意時点において会社の代表者であること
・先代経営者から贈与などで株式を取得したことによって、
会社の議決権の過半数を保有することになったこと
* 現在は、子などの相続人でなくても対象になるので、
親族外承継にも利用できます。

手続きについては、おおまかには上の画像のとおりですが、
必要になる書類など、中小企業庁のホームページなどで確認願います。
まずは、先代経営者から後継者に自社株式を贈与することが必要です。
その後、先代経営者の推定相続人全員及び後継者により、合意書を作成します。
この推定相続人には、遺留分の権利を持つことが前提なので、
兄弟姉妹や甥姪が除かれます。
また、この合意において、株式のことだけでなく、
不動産や金融資産など他の財産についても遺留分の算定から除外するかどうかや、
相続人間の衡平を図るための事項について、取り決めることもできます。
「固定合意」の場合には、自社株式の時価が相当であることについて、
税理士、公認会計士、弁護士などが証明する必要があります。
そして、合意から1カ月以内に経済産業省中小企業庁へ確認の申請をします。
各地方経済産業局へ書類を提出しても構いません。
経済産業大臣の確認を受ければ、そこから1カ月以内に家庭裁判所へ申し立て、
許可を受けられると、晴れて合意の効力が発生します。
こうした役所への手続きは、後継者が単独で行います。
これまでは会社の場合について説明しましたが、
個人事業主でも、遺留分に関する民法の特例を利用できます。
ただし、詳細は省略しますが、会社とは異なる点がいくつかあります。
まず、対象となる財産は、不動産や機械装置、自動車など、
事業を行うために必要な資産で、その事業用資産すべてを贈与する必要があります。
そして、「固定合意」の効果は認められず、
遺留分の算定の対象から外す「除外合意」だけになります。
また、手続きにおいて、推定相続人らで合意をした後、
「認定支援機関」(商工会議所や金融機関、税理士や公認会計士などで、
中小企業支援の専門性が高いと経済産業省から認定を受けた人や機関)から
確認を受けてから、中小企業庁へ申請しなければなりません。
事業承継を円滑に進めるための国の支援策には、遺留分の特例とは別に、
「事業承継税制」と呼ばれる特例があり、相続税や贈与税が優遇されます。
条件や手続きがなかなか複雑なので、詳しい税理士などにお問い合わせください。
このほか、融資や信用保証の特例もあり、銀行などの金融機関にご確認ください。
実は、ある人の生前に、その相続人が遺留分を放棄する許可を家庭裁判所から受け、
相続において遺留分の権利を主張できない仕組みは、以前から存在しました。
もっとも、相続人ごとに家庭裁判所へ申し立てる必要があり、
それぞれ厳密な判断を受けるため、使い勝手が悪い制度と評価されています。
とはいえ、経営承継円滑化法に基づく遺留分に関する民法の特例も、
相続人全員の合意が必須ではあるため、誰もが利用できるものではありません。
合意書の作成や手続きも簡単ではないため、
詳しい行政書士などの専門家に依頼するのが望ましいでしょう。